『静寂を描く家』

名古屋市千種区の住宅街。起伏ある高台の擁壁に囲まれた敷地は、街の中でありながら静けさと緑の気配を感じる場所だった。建て替えにあたり、夫婦は「何もなく、シンプルでいい」と語った。その言葉の奥に、慌ただしい日々から離れ、心を整える暮らしへ。
設計では、空間に余白を残すことを意識した。形や装飾を削ぎ落とし、光と影の移ろいが静かに浮かび上がる構成としている。直射を避けながらも、必要な場所にだけ柔らかな光を落とし、時間の流れが穏やかに感じられるよう計画した。
古い擁壁には鋼管杭で新たな基礎を支え、見えない部分に確かな安心を宿した。夫婦それぞれの時間が自然に交差するよう、動線を短く整え、空間の静けさが日常のリズムと調和するよう意図した。
——静寂はつくりこむものではなく、削ぎ落とした先にそっと現れるものだ。

余白が光を受けとめ、暮らしそのものが静かに描かれていく家となった。